日本機械学会誌 2012. 11 Vol. 115 No.1128, 774より修正

 

 超小型アクチュエータを用いた光導波路カプラスイッチ

 

1.はじめに

 マイクロ電気機械システム

MEMS)技術により,立体的な微小機械構造とマイクロアクチュエータを組み合わせることで,機能の高いセンサや集積機械システムが製作できる.加速度センサ, 圧力センサなどにMEMS 技術が広く利用されている.

またマイクロミラーの大規模なアレイを静電気で駆動する小型のプロジェクタにも広く用いられている.静電型マイクロアクチュエータは,エネルギー消費が小さいことから,省エネシステムには重要である.光制御の分野はマイクロアクチュエータの応用に適している.光通信および集積回路の分野で,シリコン導波路回路の研究が盛んになっている.シリコンは赤外光(>1μm)において透明で屈折率が高い(3.5)ため光通信用波長(1.5μm)において光の閉じ込め効率が高く,サブミクロン幅の導波路で光を伝送できる.このため,光回路と集積回路を融合して,新しい集積システム(シリコンフォトニクス)を形成できると期待されている.22 入力2 出力の光スイッチ マトリックス型の光スイッチは入出力をつなぎかえる光路切り替え回路である.2 入力2 出力(2×2)のスイッチから構成できる.

1 は光導波路カプラ(方向性結合器)を用いた2×2 スイッチの原理と製作結果を示している.2 本の導波路間隙を波長以下に近づけると,シミュレーション結果に示したように,一方の導波路の側面にしみだしている光が他方の導波路に移る.2 本の導波路の間隙が広いとそのまま通過するので,間隙を変えることで,光路をスイッチできる.間隙を変化させるためにマイクロアクチュエータを導波路に接続している.図1 の電子顕微鏡写真に示したアクチュエータは静電櫛歯で構成されており,対向する櫛歯の間に電圧を加えることで引力が発生し,導波路を駆動する.アクチュエータのサイズはおよそ20μm×40μm で,厚さは260nm,櫛歯数は20 対である.櫛歯の長さと幅は1.26μm 225nm であり,対向する櫛歯の間隙は225nm である. 一般のMEMS アクチュエータと比較して面積で1/100 程度小さい.30V で約1μm の変位を生じ,発生力は約0.3μNである.また応答時間は数μs 程度である.極めて小さいアクチュエータのため,導波路と同一面内に隣接して組み込まれている. 

 

2 は,カプラの導波路間隙に対するスイッチの出力を測定した結果である.スルー(through)は光が導波路を移らないで,そのまま出力されるポート,ドロップ(drop)は光が導波路を移って出力されるポートである.間隙が7080nm のとき,光がスイッチされている.

3.多段の光スイッチ(1

 2×2のスイッチを直並列に接続し,多段のスイッチを構成した例を図3 に示す.5 個のスイッチを接続して2×6スイッチを構成している.挿入図はBのポートに出力したときの赤外線画像であるが,B ポートのみに出力スポット像が見られる.図3 の左コラムの像は各ポートのみに出力したときのスポット像を並べて表示している.たとえばポートA では3 回のドロップポトへのスイッチにより出力されている.スイッチを多く通った場合,スポット強度は幾分低下する.これらの出力強度の比から,2×2 スイッチを1 段挿入する光損失は1dB21%)以下であった.

 

4.おわりに

 これまでよく用いられてきた抵抗加熱によりシリコンの屈折率を変えるスイッチの場合には1 スイッチ当たり10mW レベルの電力を消費する.静電アクチュエータの消費電力は,ヒータの電力に比べれば無視できるレベルである.光ファイバの機械式スイッチは実用化されているが,マイクロの領域においても,マイクロ機械方式が将来利用されることを期待したい.(本研究はSCOPE の支援を受けた)

文 献

1 Akihama, Y. and Hane, K., Single and Multiple Optical Switches that Use Freestanding Silicon Nanowire Waveguide Couplers, LightSci. Appl . 12012,e16.